Vol.7 社会と人生を建築する(秋山怜史さん)
- カテゴリ:コラム
- 投稿日:2015.06.10
SUCCESSコラム第7号は、
20代半ばで一級建築士事務所「秋山立花」を立ち上げ、
横浜市・川崎市を拠点に活躍中の秋山怜史さん(34歳)に執筆をいただきました。
秋山さんは、公共施設でのウエディング企画の実現、
シングルマザー向けシェアハウス「ペアレンティングホーム」の立ち上げなど、
建築家としての専門能力を生かして社会課題の解決に尽力しており、今後も幅広い活躍が期待されます。
秋山さんのコラムを、ぜひみなさん、ご一読ください。
========================
豊かさの基準とは何か?
という問いへの答えはとても難しい。
おそらく人それぞれ持っている答えは違うし、ひとつに絞れるような類いのものでは無いとも思います。
そんななかでも、あえて何かひとつの基準をあげるとしたら、僕たちの考える「豊かさ」とは、自分の意思で選ぶことができる選択肢が多く存在することです。
社会や人生のあらゆる場面で、選ぶことができる選択肢がひとつ増えれば、その増えた分だけ、社会や人生はより豊かなものになると信じています。
翻って、今、僕たちが暮らしているこの社会は選択肢が多いでしょうか? 十分に足りているでしょうか?
もっと豊かな社会にしたい。そう思って、僕たち『秋山(あきやま)立花(たちばな)』は「社会と人生に新しい選択肢を提案する」ということを事務所の理念として掲げています。
小さな建築設計事務所が大層な理念を掲げたものだと思いますが、僕たちはこの理念を実現すべく、ひとつひとつのプロジェクトを推進しています。
その第一弾となったのが、川崎市高津区で始動した日本で初めてのシングルマザー専用シェアハウス『ペアレンティングホーム』です。
ペアレンティングホームは「誰もが子育ても仕事も楽しく両立できる社会」を実現するための一助となるために始めたプロジェクトで、まずはシングルマザーの方々のためのサービスとして出発しました。
僕たちがペアレンティングホームを通して入居者の方々に提供していることが3つあります。
1つは、こどもに兄弟ができること。
ペアレンティングホームはシェアハウスですから、個室を除いて、リビングやキッチン、水廻りなどはすべて共有です。こどもたちは共有のリビングに集っていつも遊んでいます。もちろん喧嘩をすることもありますが、年上のこどもが年下のこどもの面倒をみたり、一緒に遊んでいたり。お母さんにべったりだった子でも、次第にこどもたち同士で交流をしていきます。そうすることで、お母さんたちは「自分の時間」を格段に取りやすくなります。
2つめは、子育ての悩みを共有できること。
シングルマザーの方々に限らず、すぐ近くに子育ての悩みを共有できる存在がいることはとても心強いことだと思います。家族でもないけど、友人というのもちょっと違う。「まるで戦友のよう」という入居者の感想をいただいたことがありますが、そんな戦友が近くにいて、話ができる環境にあるのがペアレンティングホームなのです。
3つめはチャイルドケアのサービスを共有できること。
ペアレンティングホームには週に1〜2回、決められた曜日にチャイルドケアシッターを派遣しています。チャイルドケアシッターの仕事でまず重要なのが夕飯の準備をすること。シングルマザーの方々にアンケートをとったときに、一番苦痛な家事として挙げられたのが「夕飯の準備」。仕事で疲れて、急いでこどもを保育園に迎えにいき、そこから買い物。家に帰って調理をして食べさせることまでを考えると、苦痛と答えるのも分かります。そこで、そんな家事から開放される日をつくるのです。このほか、子育ての悩みを聞いたり、こどもと一緒に遊んだりして、お母さんが「子育てをしなくてもよい時間」を確保していきます。
こうしたサービスを付加することで、シングルマザーの方々が仕事も子育てもしやすくなる住環境を整えています。
ペアレンティングホームは2012年3月に第一弾が川崎市高津区に誕生して、現在では5件が運営されています。これからも数を増やしていき、ひとりでも多くの人が仕事も子育てもしやすくなるようにしたい。そしてシングルマザーに限らず、すべての子育て世帯にむけて、住環境を整えていきたいと思っています。
<プロフィール>
秋山怜史(あきやまさとし)
1981年生まれの34歳。2001年イタリアの建築に触れ「建築とは人の人生を変えられる仕事」と感じ、建築家としての道を歩む。
2008年 一級建築士事務所「秋山立花」(http://akiyamatachibana.com/)を設立。
2012年 シングルマザー専用シェアハウス「ペアレンティングホーム」を立ち上げ、子育ても仕事も楽しく両立する環境を提供。
建築を通して、「社会と人生に新しい選択肢を提案し、人の人生と社会を豊かにする」に取り組む。