コラム

Vol.9 その時を迎えるとしたら(上村知美さん)

  • カテゴリ:コラム
  • 投稿日:2022.09.27

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SUCCESSコラム第8号は、看護師の上村知美さんに執筆をいただきました。

上村さんは昭和大学病院で看護主事として勤務され、看護学校では後進の育成にも携わってきました。看護の豊富な経験を活かして、訪問看護の道を選ばれました。また、SUCCESSでの活動を通して患児のサポートもされています。

日々どのような想いで患者さんやご家族と向き合っているのかを綴っていただきました。

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 もし、自分や大切な家族が病気になったとして、「その病気は治らないかもしれない」と知らされたとします。その時、最期の時間をどうしたいと思いますか?

 私が看護師になった頃(といっても30年ほど前になりますが)、病院で最期の時を迎えるのが当たり前であったと思います。しかしながら、現状は、病院は病気を治療する場所であり、最期を迎えるべき場所ではなくなってきています。もちろん、病院で亡くなる方も多くいらっしゃいますが、ご自宅や施設で迎えることも増えてきています。

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 私は現在、何かしらの疾患を抱えながらご自宅で過ごされている方に、看護師として伺う「訪問看護師」として仕事をしています。体調や薬の管理、リハビリを一緒に行うことももちろん、日常生活への相談やアドバイスなどを患者さんやご家族と一緒に考えていくことも訪問看護師の大切な仕事です。これは患者さんだけでなく、ご家族も含め患者さんを支える周囲の人々と共に行われていくべきこと、と思っています。患者さんがつらいと感じることは周りの方々も同じように感じていると思うからです。

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 私は子ども時代は体調を崩しやすく、病院通いで学校も休みがちでした。家族の入院も重なり、「自分にできることってどんなことだろう」と漠然と考えるうち、看護師を目指すようになりました。
病棟看護師となり3年が経った頃、ある難病の患者さんが、ご自宅での療養を希望されました。
まだ訪問看護や介護保険などの制度(※) はできたばかり。病棟と違い、医療機器や医療品はありませんし、医療者も側にいません。その上、訪問看護の対象も高齢者がほとんどで、訪問看護担当からは「難病の患者さんを支えるのは難しい」と断られてしまいました。
そこで、患者さん、ご家族、保健所、ボランティアさんにも来ていただき、病院としての役割、患者さんを迎える人たちの役割、ご家族のサポートなど、どうすれば患者さんがご自宅で療養しながら過ごせるかを、時には喧嘩もしながら、徹底的に話し合いました。訪問看護のはしりみたいなものでしたが、患者さんのご家族も含め、患者さんひとりひとりの場所である「お家」をつくるサポートをしたい、という想いでいっぱいになりました。

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 私も入院をした経験があります。その時、近くに誰かがいることが安心につながると実感しました。家族の側も病気になれば同じように不安を感じています。そのような中で、最期の時間を過ごす場所は、安心して過ごせる場所なのではないでしょうか。療養する場所が、すでに病院から「お家」に代わりつつあるのも事実です。

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 私たち訪問医療従事者(医師・看護師だけでなくケアマネージャーや介護スタッフも含め)は、「お家」で療養される方々の一番身近な存在です。実際に数多くのスタッフがかかわっています。
できるだけ、不安やつらい想いを減らすことができるよう、患者さんと一緒にそれらの想いに寄り添っていく存在でありたいと思っています。お一人で悩むことはありません。いつでも相談できる人や場所は沢山あります。
誰かが「傍にいる」こと、「手をとる、身体にふれていてくれる」ことは、気持ちが落ち着き、安心感につながるものではないでしょうか。その時を迎えることになり、「どうしよう」となったら、私たち訪問医療従事者がいることを思い出していただけると嬉しいです。いつでも患者さんやご家族の傍にいて、手を取り、「お家」で安心して過ごしていただきたい。そのような想いで、日々頑張っています。

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1982 年に老人保健法が制定され、はじめて病院の退院患者の訪問看護に 医療保険の診療報酬が認められました。1988 年にがんや難病などの在宅療養者が診療報酬対象になり、高齢者に限らず訪問看護・指導が診療報酬で算定できるようになりました。

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上村 智美